Thom Browne 2009 Spring

2009春夏ニューヨーク・コレクションが、主会場をマンハッタンの中心部にあるブライアントパークの特設テントに置き、開催された。ウィメンズを中心に回るショーの中に於いて注目したいのは、いま世界で最も注目されているデザイナーの一人、トム・ブラウンのメンズ・コレクション。



チュチュをコートの下に着たスタイルは、既存のスタイルに属さない新しい風を予感させる動揺を呼んだ。トム・ブラウンの象徴的なスタイルでもある、スーツでありながらくるぶしが見えるぐらい短いクロップド丈のパンツも、ショート丈のパンツを腰で履くことで印象を今までと大分違って見せた。それまでの上衣にタイトで丈の短いジャケットを合わせるスタイルも、新しさを求めている印象を与えた。かっちりとしたテーラードに腰履きのパンツを筆頭に、タイトなカーディガンにロングスカート、胸の高さ程までハイウエストなパンツ、チュールが内臓されたコートと、次々と登場する過度に崩れた丈の新しいバランスが、混乱にもにたところから安定を失い、シンメトリーでありながらアシンメトリーに持つ動感を喚起させ、危うく繊細なイメージを誘った。保守的なデザイナーが「易しい服」を作る一方、このメンズ・コレクションでチュールをみて、メンズ・ファッション界の操舵輪を握っているのはトム・ブラウンなのではないかと感じた。一部メディアではメンズ・ドレスウェア界は「トム・ブラウン便乗派」と「トム・ブラウン反対派」に別れると予想するほど、注目のコレクションであったことに間違いない。

トム・ブラウン(Thom Browne)

1965年アメリカのペンシルバニア州生まれ。インディアナ州ノートルダム大学で経営学を学ぶ。
卒業後はロサンゼルスに移って俳優として活動をする。俳優としては満足に活躍できずに、ニューヨークに移って複数のファッションブランドで勤務。アルマーニショールームで販売員の仕事に就いたこともあった。
その後、ラルフローレンが展開するブランド、Club Monacoにてデザインを経験。ここでは数年にわたって勤務するが、デザイナーのラルフローレンとともに働く機会を得たことは貴重な経験だった。
2001年に自身の名を関したブランド「Thom Browne」をスタート。アイテムもスーツ、ニット、ネクタイ、アクセサリーとメンズウェアの中で徐々に範囲を広げていく。
2004A/W、ニューヨークコレクションにて初めてプレタポルテに参加。ここからトムブラウンは一気にブレイク、ファッションのあらゆる賞を総なめにする。2005年、「Fashon Group Inernationl」のライジングスターアワード、メンズ部門賞、2006年、CFDAメンズデザイナーオブザイヤーなど数々の賞を受賞した。
トムブラウンのファッションの特徴は50年代後半〜60年代前半のスタイルと繋がりがある。このアメリカの黄金時代と言える時期のファッションスタイルにインスピレーションを受けたブラウンのコレクションが、ここ数年アメリカで爆発的に受け入れられた。アメトラ(アメリカン・トラッディショナル)をベースにした、カジュアルではない、ややゆったりとしたドレススーツスタイルが特徴的。
2007A/Wコレクションから、ブルックスブラザーズとのコラボレーションで新ライン「ブラック フリース」を発表。トムブラウンはメンズ、レディースともにデザインを担当。これはブルックスブラザーズにとっても初めてのデザイナーとのコラボレーションで記念すべきものだった。
その他メンズジュエリーで、ハリーウィンストンとのコラボレーションも行う。
アメリカではトムブラウンのスーツが1着3000ドル前後、日本円にすると30万円を超える金額にもかかわらず爆発的に売れている。
トムブラウンのポリシーとして「重要なのは人々を挑発すること。クラシックに着想した作品ですが、受け手を違ったように考えさせたいと考えています。コムデギャルソンの川久保玲渡辺淳弥ら、日本のデザイナーも同じことをしているのではないでしょうか」と新聞のインタビューでコメントしている。